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2018年のお盆休みも終わろうかとする8月17日(金)。暑さ寒さも……とは良く言ったもので、風は季節の移り変わりを告げていた。
名古屋シネマテーク(名古屋市千種区今池)のロビーは19時過ぎから徐々に増えはじめた観客はあれよあれよという間に劇場から溢れ、フロア全体が人で一杯となった。
『少女邂逅』(2017年/101分)の上映はこの日が最終日で、枝優花監督と近藤笑菜(出演)が舞台挨拶に立つということもあり、今池スタービルの2階を埋め尽くした観客で20:15の回は大盛況となった。

『少女邂逅』ストーリー

同じクラスのグループからいじめを受け、家でも父母との関係がギクシャクしている、孤独な女子高生・小原ミユリ(保紫萌香)。学校では声を出すことが出来ず、リストカットのためにカッターナイフを常に持っているが、使う勇気も出せずに毎日を過ごす。
ある日の学校帰り、ミユリはいじめを受けた山の中で一匹の蚕(かいこ)を拾う。ミユリは「ツムギ」と名付けた蚕をこっそり飼い、小さな箱に入れて学校にも連れていった。ツムギは、ミユリにとって唯一の友達だった。
だが、いじめっ子の清水(土山茜)にツムギのことがバレ、蚕は森に捨てられてしまう。絶望した挙げ句にスカートで視界を奪われ、山に置き去りにされたミユリだったが、白いドレスを着た見知らぬ少女(モトーラ世理奈)が手を差し伸べる。
見知らぬ少女は次の日、ミユリの通う学校に東京からの転校生として現れる。黒板には彼女の名前、「富田紬(とみだ つむぎ)」と書かれていた──。

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枝優花監督 本日は夜遅くにも拘らず、ありがとうございます。

近藤笑菜 おかっぱでよく喋る(笑)、「鈴木真奈」という役をやっていました、近藤笑菜です。私、地元がこっち……尾張旭の出身なので、昨夜から登壇させていただいております。宜しくお願い致します。

MC. 『少女邂逅』を作られた経緯を教えていただけますか?(司会進行:名古屋シネマテーク 永吉直之)

枝監督 この映画を撮ったのは、ちょうど1年前の23歳の時だったんですけど、私の14歳の時の実体験をベースに作っています。18歳くらいの時に「自分で映画を作ってみたい」と思ったんですが、その時は「自分の体験を基に」というよりは、単純に「手から糸を出してみたいなぁ」という発想から始まったんです(笑)。脚本を書いて、当時の映画サークルの先輩に見せたら、「手から糸は、出せないなぁ」って言われまして……確かに、特殊造型が出来る人もいないし、自分も色んな面で“体力”がない……体力面でも、精神的にも、人脈も。なので今回は、映画のスタッフをやりながら仲間を集めて、集めて……自分で温めていたものを、大体20代の若いスタッフ達で、ケンカしいしい撮った映画です。
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MC. 近藤さんは、どの辺りの段階から係わったんでしょう?

近藤 私は、主演の2人を決めるオーディションからですかね。募集が普通に、SNS……Twitterとかで流れてて。私は、元々枝さんと知り合いなんです。芝居を習っていた時に、枝さんもそこで教えていたので。

枝監督 でも、オーディションは受けてもらいました。

近藤 そこで……落ちて(笑)。また改めて、「別の役で」というお話を頂いて。オーディション自体は、いつ頃でしたっけ?
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枝監督 あれは、2年前の12月でしたか……

近藤 あ、年末でしたね。撮影が、5月から……半年後くらいでしたもんね。でも、話をもらったのは4月とか……けっこうギリギリでしたよね(笑)。

枝監督 本当に、ギリギリまで悩んだんです。主演と被ってはいけないし、プラス個性も欲しくて。それに、保紫萌香は芝居の経験はあったものの、主演2人がほぼほぼ演技経験がなかったんで、絶対に現場で一杯いっぱいになってしまうのが目に見えてたんです。全力で支えてくれる女優陣を探して、それで近藤さんに(笑)。

近藤 (主演以外の女優は)けっこう皆色んな経緯でしたよね。

枝監督 そうですね。オーディション落ちた組とか……

近藤 「衣装合わせの前日に電話が来た!」なんて子も(笑)。

枝監督 ……もう、滑り込みで(笑)。
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MC. 支えるという意味では、スタッフ集めの難しさもあったのでは?

枝監督 商業作品はお金を出してくれる方々がいて、劇場で流すのを前提で始まる話なので、監督というのは仕事として監督業をやるものですが……この作品は自主映画、私が「撮りたい!」って言って撮る映画なので、監督の私が半分プロデューサーみたいなことをやりながら始まった映画です。やっぱり、まずお金の問題がありました。半分は自分でお金を出して……学生時代に貯めたお金を全部つぎ込んで、0円になった通帳を見て「どうやって生きていこうかな」と思ったり(笑)。でも、スタッフとの相性は凄く考えました。私が絶対に若くなるので、どういう人と組めば撮れるのか……技術部といわれるずっと傍にいる人たちは、なるべくコミュニケートできる人たちが良くて。“糸を出す”特殊技能の方は、自分が他の現場にスタッフで入った時に見つけた方でした。その時は、首にペンを刺して血を噴き出させるみたいな造型を作ってる人がいて、現場中にそぉっと近付いて「あの……手から糸って、どう出しますかね?」って聞いたら、「あ、簡単、簡単」って言われて(笑)。

MC. オーディションで主演のお二人を選んだ決め手は?

枝監督 私自身もそうなんですけど、主演ということは名前が圧倒的に多く出ます。そんな作品を私と一緒に地の果てまで背負っていかなきゃならない方々なので、駄作でも良作でも名前は出てきてしまうし、処女作という特別な作品ということで、私も相当慎重になりました。ここで、彼女たちの経歴は汚せないですし。なので、どちらかというと同じ目線で映画を作れる方を探したんです。「手伝ってやるよ」ってスタンスで来られても、「何とかしてください」って来られても、多分私は上手く出来ないので。2人は、一緒に同じ目線で走っていけるスタンスで来てくれた、「どうにかしたい現状があって、この映画に懸けてる」という想いが一緒だったんです。この映画を撮ったことで、自分がそれまで持っていた保身的なものは全て捨てました。例えば、お金が無くなったり、仕事が失くなったり……色々あったんですけど、その分、想いは強いんです(笑)。
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MC. “支える側”から見て、2人は如何でした?

近藤 保紫萌香さんと、モトーラ世理奈さん、人として違う所に枝監督は「面白い」と思ったんだと思うんですが、それぞれ演出のアプローチを変えていたんです。それが凄く化学反応を起こしていたように思います。枝監督の地元の群馬で2週間、スタッフ、キャスト総出で合宿して撮影してたんです。どうしても主演2人のシーンが多い、朝から晩までということも多くかったので、他の人よりも2人でいる時間が多かったと思います。その中で関係性が出来ていったような……モトちゃんが、保紫ちゃんの後ろを付いていくような感じとか、凄く可愛かったですね(笑)。
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MC. 当初はどんな風に上映されるかも分からなかった作品が、国内だけでなく、海外でも凄い反響です。

枝監督 いや、私はただただ流されていると言うか……こんな展開を想像して作った訳ではないので(笑)。スタンスとしてはただの自叙伝みたいな感じで、自分の欲望を見せたい気持ちはあまり無くて。凄く分かりづらい映画だとは思いますが、常にお客さん側に立って、「こう思ってほしい」「こういう気持ちになってほしい」と……どう見えるかということを、ずっと現場でスタッフ達と考えてきたんです。他の国で観ていただいた時も、色んな反応を頂きました。結局、自主映画だろうが、商業映画だろうが、お客さんに観てもらわないと映画として成立しないと思っているので……変化には戸惑いつつも、映画を撮るスタンスとしては、他の現場でスタッフとして入った時からさほど変わっていないと思っています。
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Q. 登場人物、特にクラスメイトが女性ばかりというのは、何か意図があったんですか?

枝監督 一応、女子高という設定なんですけど、男性が入ることによって他の関係を作りたくなかったんです。とにかく、主演2人に視点を行かせたくて。男性がいる事によって2人の関係性が違ってきちゃうと思ったので、男性は大人だけにして、恋愛や性的な対象としての男性は排除しました。

MC. 今後の告知など、お願いします。

近藤 『少女邂逅』と同じ【MOOSIC LAB】という企画で、2018年の『左様なら』(監督:石橋夕帆)と『無限ファンデーション』(監督:大崎章)に出演しています。『無限ファンデーション』の方はこの映画と同じく群馬で撮影していて、ちょうど一昨日まで群馬にいました(笑)。【MOOSIC LAB 2018】は、11月の新宿をはじめ、全国で上映される予定です。
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枝監督 『少女邂逅』のスピンオフ的な作品を、YouTubeで無料配信しています。『放課後ソーダ日和』というんですが、第1話には主演2人も出ています。1話10分でサラッと観れるので、よかったら。全然映画と違った雰囲気ですので、観ていただけると嬉しいです。あと、『21世紀の女の子』という、山戸結希監督が主催している女性監督14人での短編作品のオムニバス映画に参加しています。公開はまだ先ですが、宜しくお願いします。

舞台挨拶の後ロビーにて行われたサイン会には、夜も更けたというのに観客のほとんどが並び、23時過ぎにようやく行列が解消した。
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今後ますます上映の場を広げる『少女邂逅』。
大阪に、神戸に、京都に……あなたの街に舞い降りたなら、残酷だからこそ美しい少女たちの変身(メタモルフォーゼ)劇を、映画館で確かめてほしい。
映画も少女も、観る者の存在があってこそ、姿を変えていくものなのだ――。

映画『少女邂逅』公式サイト

名古屋シネマテーク公式サイト