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ナチスのホロコースト(ジェノサイド)により虐殺されたユダヤ人は、ヨーロッパ全土で約600万人と言われている。(1941年~45年)
うち16万人はドイツ国籍で、ドイツ系ユダヤ人は国外への移住が禁じられ、老若男女を問わず収容所に送られた。
ナチス・ドイツ宣伝相ゲッベルスが1943年6月19日に発した「首都ベルリンからユダヤ人を一掃した」との宣言は、連合国だけでなく世界中を震撼せしめた。

だが、事実は違った。
約7000人のユダヤ人が戦時下のベルリンに潜伏し、戦争終結まで生き延びたのは実に1500人を数えるという。
第二次世界大戦下ナチス・ドイツの首都ベルリンには、7000人もの“アンネ・フランク”が息を潜めて生きていたのだ。

潜伏したユダヤ人について当時の状況を調査したクラウス・レーフレ監督は、この驚愕の事実を伝える手段として劇場公開作品を選択した。
こうして、生還者たちへのインタビューと、証言を再現したドラマパートから構成されたサバイバル・ストーリーは、『ヒトラーを欺いた黄色い星』として映画化されるに至ったのである。

『ヒトラーを欺いた黄色い星』ストーリー

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ベルリンに暮らすツィオマ・シェーンハウス(マックス・マウフ)は、当時20歳。父母と共に当局からの移送命令を受けた。集合場所で咄嗟に吐いた嘘により収容所行きを免れたツィオマは、それ以降両親と生き別れることとなった。ベルリン市内の空室を20軒ほど渡り歩いたのち親切な女性家主にめぐり合い、ツィオマは身を落ち着かせる潜伏場所を見つけた。手先が器用なツィオマは、ユダヤ人を支援するカウフマンからの依頼で身分証の偽造を始める。友人・ルートヴィヒが見付けた作業場も申し分なく、遂には幼い頃からの夢だったヨットを購入するほどの報酬を得るまでになった。だが、手先の器用さとは裏腹にだらしない性格のツィオマは、大きなトラブルを起こしてしまう。
友人宅でのダンスが趣味だったルート・アルント(ルビー・O・フィー)は、当時20歳。ユダヤ人弾圧の激化によって、家族と共にゲール夫人の家に匿われた。ゲール家は、医師であるルートの父を、娘の恩人として敬っていたのだ。見えないゲシュタポに怯える日々を過ごすうち、ルートは友人のエレンと共に戦争未亡人を装いヴェールで顔を隠し外出するようになる。彼女らは何度も隠れ家を失い、途方に暮れる日々を送り続ける。ルートとエレンは、ドイツ軍大佐のメイドという職にありつく。彼女たちがユダヤ人だと知りながら、ヴェーレン大佐は何故か仕事を与えて守ってくれた。ベルリン空襲の中、離れて潜伏する家族のもとへ急ぐルートは、地獄のような光景を目にする。
オイゲン・フリーデ(アーロン・アルタラス)は、当時16歳。義父がドイツ人のため、ユダヤ人の証である黄色い六芒星(ダビデの星)のワッペンは、家族でオイデンだけに付ける義務があった。黄色い星は、迫害の目印なのだ。両親と離れて匿われるようになったオイゲンは、潜伏先を何度も転々とする。最後に匿ってくれたのは、郊外のヴィンクラー宅。オイゲンほどの年齢で軍服を着ていない若者は誰一人いなかったため、怪しまれないようヒトラー・ユーゲントの制服を着て外出した。ある日、収容所から脱出してきた男ヴェルナーがヴィンクラー家に逃げ込んでくる。オイデンはヴェルナーに、信じがたいユダヤ人虐殺の実態を聞いた。オイゲンは、反ナチスのビラ作りを手伝うことになる。
知り合いのユダヤ人一家と暮らしていた孤児のハンニ・レヴィ(アリス・ドワイヤー)は、当時17歳。ひとり収容所行きを免れて、着の身着のまま母の友人ベルガー夫人を頼る。ハンネローレ・ヴィンクラーという偽名を使い、美容院で髪を金色に染め、ユダヤ人としての自分を捨て去るハンニだが、孤独に苛まれ時おり精神の均衡を失う。ある日、ハンニは映画館で若い男性に声をかけられ、戦地に行く自分に代わり母親の話し相手を頼まれる。行く宛もなかったハンニを男性の母親は自宅に匿ってくれ、ふたりは本当の母子のように日々を過ごす。大戦末期ベルリンも陥落間近で、ハンニの潜伏先にも侵攻兵が現れた。それは、ソ連軍の兵士で――。
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証言者は当時16~20歳だったため、ドラマパートの主役たちは、フレッシュな若手俳優が起用されている。
ツィオマ役のマックス・マウフ、ルート役のルビー・フィー、オイゲン役のアーロン・アルタラス、ハンニ役のアリス・ドワイヤー……その誰もが、本当に素晴らしい。
『ヒトラーを欺いた黄色い星』はドキュメンタリー映画として一級の作品であるだけでなく、ドラマ部分での役者たちの熱演、そしてクラウス・レーフレ監督の確かな演出手腕により、劇映画としても充分すぎるほどの水準を見せつける。

だが、そんな高レベルの芝居に勝るとも劣らないのが、生還者4人……ツゥオマ・シェーンハウス、ルート・アレント、オイデン・フリーデ、ハンニ・レヴィ本人へのインタビュー場面である。
撮影当時90歳を越える高齢というのに、4人の証言は実に明確で、具体的で、機知に富む。
実に凄惨な内容を語っているにも拘らず、証言者の発言は時折りユーモアを垣間見せ、その語り口から脳裏に投影される映像は、時にドラマパートの映像を凌ぐのではないかと思わせられる瞬間がある。

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そんなドラマとインタビューの場面転換で、若き俳優たちのモノローグと証言者たちの発言が、オーバーラップする。
これが、自然なのだ……驚くほど、鳥肌が立つほどナチュラルに、含蓄に満ちた枯声が若者の声に、瑞々しい美声が老人の声に、移り変わる。
『ヒトラーを欺いた黄色い星』を鑑賞する上で(敢えて、「鑑賞」と書く)、最も重要な演出と言っても過言ではないので、是非とも聴き漏らさないでほしい。

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この作品を語る上で、忘れてはならないことが、もう一つある。
それは、時間の経過である。
実際、撮影当時カメラの前でしっかりとした口調で語っていた4人の証言者だが、その何人かは既に亡くなっているという。

レーフレ監督は、後の世へ遺すことに間に合ったのだ……ホロコーストの只中にあるベルリンで、希望を失くすことなく生き延びようとした、7000人ものユダヤ人の真実を。
私たちは、広く世界へ広めることに間に合ったのだ……戦時下のナチス・ドイツで、希望を失いそうな人々に差し伸べられた手は、生き延びたユダヤ人より多かったであろうことを。

歴史は、語り継いでこそ価値ある物となるのだ……正であろうが、負であろうが――。

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映画『ヒトラーを欺いた黄色い星』

2017年/ドイツ/ドイツ語/111分/原題:Die Unsichtbaren
【提供】ニューセレクト
【配給】アルバトロス・フィルム

7月28日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、ほか
8月11日(土)より名演小劇場(名古屋市東区東桜)ほか全国順次ロードショー

映画『ヒトラーを欺いた黄色い星』公式サイト

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