今年も、夏がやってきた。
夏に終戦記念日を迎える我が国では、新作・旧作を問わず戦争に材を取った映画をこの時期に合わせて上映する傾向が強い。
日本に於ける夏とは、戦争について深く深く考える季節なのだ。
そんな戦争映画の秀作が公開中で、大変な評判を呼んでいる。
名古屋では7月28日(土)から名演小劇場(名古屋市東区東桜)で公開されるので、是非とも紹介したい。
アメリカ・中国・香港の合作、『最後のランナー』(監督:スティーヴン・シン/2016年/96分)だ。
『最後のランナー』ストーリー
オリンピックの金メダリストであるエリック・リデル(ジョセフ・ファインズ)は、敬虔なクリスチャン。1924年パリ・オリンピックでは、安息日が決勝となる種目を回避し、条件の調った男子400メートル走のみ出場し金メダルを獲得したという逸話を持つ。
リデルは陸上選手のキャリアを捨て、オリンピックの翌年には中国・天津へ赴任。宣教師、そして教師として、在中イギリス人のみならず、現地の中国人とも親密な交流を持ち、彼の人柄は人々を魅了する。
だが、時代は暗雲が立ち込めていた。人類は二度目の世界大戦へと舵を切り、1937年には日本軍が天津を占領する。妻フローレンス(エリザベス・アレンズ)と娘たちを妻の祖国カナダへ退避させたリデルは、日本軍の厳しい接収にも心を折らず人道支援を続けるが、遂には収容所に入れられてしまう。
劣悪な環境に苦悩しつつも、リデルは走ることで不屈の魂を示し、捕虜の仲間や子供たちに希望をもたらすのだが――。
ストーリーを読んでピンと来た映画ファンも多いであろう。
そう、名作『炎のランナー』(監督:デイヴィッド・パトナム/1982年/123分)の主役の一人、イアン・チャールソンが演じたエリック・リデルの後日譚というべき作品である。
勝てるレースを回避してまで信仰を貫いた陸上選手・リデルの実話は数多の人々の胸を打ったが、その後の人生にもまた両瞳を熱く潤ましむべき運命があろうとは。
『炎のランナー』では、音楽に耳を奪われた観客が大勢いただろう。
バンゲリスの映画音楽は、今も人々の心を掴み続けている。
奇しくも『最後のランナー』も、音楽が素晴らしい。
スコット・グリア作曲の劇伴に、思わず「本歌取り」を感じる映画ファンも大勢出ることだろう。
考えてみれば至極当然のことだというのに、そもそも筆者は中国に日本軍が欧米人を収監するための収容所があったことを知らなかった。
日本兵の捕虜への振る舞いは実に暴虐非道なものなので、この時点でかなり精神的に苛まれる。
だが、これは直視すべき歴史の教訓でもあるのだ。
そんな過酷な責め苦は、当然の如く主人公・リデルにも降りかかる。
悲惨な状況なればこそ、彼の行動は俘虜に、そして観る者に大いなる希望を抱かせるのであるが、目を覆いたくなる場面は一度や二度ではない。
そして、究極の皮肉とも最悪な福音とも捉えられそうな選択が、リデルを待ち受ける。
そんな彼の決断には、胸を震わせられずにはいられないだろう。
ジョセフ・ファインズ(『恋におちたシェイクスピア』監督:ジョン・マッデン/1998年/137分)が、とにかく素晴らしい。
私たちがこれまで思い描いてきたエリック・リデル像……『炎のランナー』でのイアン・チャールソンとはまた違った、「エリック・リデル像の新たなるスタンダード」を作り上げたと言っても過言ではない。
また、ジ・ニウ役のショーン・ドウにもご注目を。
怪作『神なるオオカミ』(監督:ジャン=ジャック・アノー/2015年/121分)で怪役を怪演したドウが、真っ当な人格者を演じる……役の振り幅には舌を巻くばかりだ。
空を舞う「鷲の翼」に感じた熱い想いは、哀惜なのか、憐憫なのか、悔恨なのか……それとも、希望なのか……。
是非とも劇場で、胸に去来する激情を確かめてほしい。
日本の夏は、思索する季節なのである――。
映画『最後のランナー』公式サイト
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