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2018年7月20日(金)~22(日)、シアターカフェ(名古屋市中区大須)にて【続 谷口雄一郎監督大全?!】が開催された。
2015年に企画された【夏休み特集 谷口雄一郎監督大全?!】以降の作品3本が上映され、シアターカフェは谷口監督の全作品を網羅したことになる。

また、同時上映されたシークレット作品(2017年/16分)は、諸々の事情で今後も日の目を見る可能性が皆無に等しく、ソフト化は望むべくもないので、同様のスニーク上映を待つより鑑賞の機会は無いという激レアな映像だった。

谷口雄一郎監督は地元・愛知県春日井市の出身とあって、その凱旋上映に多くの映画ファンがシアターカフェに足を運んだ。

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『私以外の人』

監督・脚本:谷口雄一郎/出演:ミネオショウ、久保陽香、いしはらだいすけ、甘能千晴、小山分季陽/2015年/18分29秒

結婚式場に勤める男(ミネオショウ)はコーヒーに一家言を持ち、キッチンにはコーヒー関連の書籍が並ぶ。ある日、鍵を失くした隣人の女性(久保陽香)にコーヒーを振る舞うことになったのだが、拘りを持たない彼女が取るのはコーヒーの美味しさを損なうような行動ばかりで――。

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谷口監督 東京で【八王子Short Film映画祭】という、結婚式場「八王子日本閣」が主催する映画祭が毎年開かれています。コンペ形式の映画祭でして、前の特集で上映した『彼女がドレスを脱ぐ理由』(2014年/19分)の翌年に制作した作品になります。主演は、こちらのシアターカフェさんでも上映されました『ラストラブレター』(監督:森田博之/2016年/56分)のミネオショウさん、そして『見栄を張る』(監督:藤村明世/2016年/93分)の久保陽香さん。「僕の撮影を経てから売れる」というのが、どうやら良くあることらしいです(笑)。元々脚本を書いたのは、僕が映画監督をやりはじめる切っ掛けとなった賞が2009年にあったんですけど、それ以前に書いていたものです。いやぁ……女って、怖い(笑)。特に女性に凄く怒られる作品かと思っていたんですけど、意外とそうでもないんですよね……あ、井口奈己監督は「嫌い!」って言ってましたが(笑)。

『ハローグッバイ』

監督・脚本・編集:谷口雄一郎/出演:和久田朱里、安藤笑、橋本杏奈、林美憂/2016年/33分

のぞみ(和久田朱里)は友人の真由美(安藤笑)と、祖母が遺した田舎の一軒家に住んでいて、二人を慕う後輩のほのか(林美憂)がよく遊びにくる。ある朝、真由美の友達・陽子(橋本杏奈)がやってくる。この家で暮らすため、陽子は愛知県豊田市を訪れたのだった――。
豊田市のご当地アイドル「Star☆T」メンバーが主演の、「豊田アイドル映画プロジェクトrestart」作品

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谷口監督 演技自体がほとんど初体験みたいな子たちだったので、どうしようかというのがあったんですけど……やるからには、ちゃんとしたドラマにしました。実際にやってみたところ、彼女たちは人前に出る仕事をやっているので、ちゃんと反応を返してくれるんですよね。普通に話してる時、人とコミュニケーションを取るために身振り手振りも加えますが、そこにどれだけ感情を伝えるかが重要だったりします。そんな感覚を彼女たちは全員持っていたので、僕が一言言えばちゃんと返してくれるところまで持っていける……まだまだかも知れませんが、ほんのちょっと教えただけでそれだけやってくれたので。特に主演の和久田さんは、この映画が成立するための重要なシーンをやり切ってくれたんで、彼女たちには凄く教えられました。撮り終わったら、ぶっ倒れるほど疲れたのを覚えています。長回しのシーンも、彼女たちがもう出来なくなるくらいまで何回も回させてもらいました。本来であれば僕が細かく言ってあげるのが良いんでしょうけど、実際彼女たちが今後映画をやっていく……何かしら表現する仕事をしていくのであれば、何か足しになればというのがあったので。これは3年前の作品なんですが、今でも「Star☆T」に在籍しているのは和久田さん1人で、他の3人は卒業されています。安藤さんは他のアイドルグループに移っても人気になって、今から半年くらい前、映画と同じような展開を見せましてビックリしました。そんな感じで、ファンの方や和久田さんは、現実が(映画の内容に)追い着いてきてリンクしちゃうらしくて、観ると泣いちゃうらしいんですね。和久田さんは初日にゲストで来たんですけど、「自分の中で整理が着いて、やっとちゃんと観れた」って言ってました。

『しらないで』

監督・脚本:谷口雄一郎/出演:広澤草、青木友哉、竹田有美香、卯ノ原圭吾/2017年/19分46秒

雑誌編集者の菜々子(広澤草)が編集長の代理で取材に訪れたのは、元彼・石黒(青木友哉)が営むオーガニックレストランであった。取材が終わり、会話が進むうち、気持ちの温度差は浮き彫りになって……。
手違いでレストランを予約し損ねた大学生カップル・幹恵(竹田有美香)と佐々木(卯ノ原圭吾)は、落胆して観光農園を眺めていた。そんな時、掛かってきた電話で幹恵は佐々木の隠し事を知ってしまい……。
二組の男女が交差する、とある日の那須塩原。
那須アワード2017「観光部門」那須に行きたくなるショートフィルム作品

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谷口監督 ここで、ゲストをお呼びします……『しらないで』の現場に参加してもらった、森一沙さんです。

森一沙 僕は本業でプレゼンやイベント用の映像を作ってるんですが、したことがないシナリオの勉強を一度やってみたくて、映画美学校の「スクリプトドクター養成講座」に参加したんです。

谷口監督 三宅隆太監督の講座ですね。僕は、ちょうど『私以外の人』を撮り終わったくらいですか……別件で何個か抱えてたシナリオをこてんぱんにやられてた時期で、もう一回勉強しなきゃいけないな、と。

 そんな向学心に溢れた二人が出会い(笑)、何か撮りに行くなら教えてくださいと、現場に連れて行ってもらったんです。なので、僕は映画業界の人ではないんですよ。

谷口監督 『しらないで』には、僕が大学4年生くらいの時に体験した要素が、一杯入ってます。そこの、鶴舞公園あたりで(笑)……。撮影の前年2016年に【那須ショートフィルムフェスティバル】に参加した時、たまたま撮影場所のレストランをお伺いする機会があって、窓の風景を見た時に「撮れるな」って直感したんですね。大学の時に感じたこと、今感じてること、色々なことがリンクして思い付いたのが、あの話です。「ホント、男ってバカね」って話で(笑)……受け止め方は人それぞれだと思うんですけど、僕の中では受け止められるか考えると不安だったりします。現場を引っ張ってくれた主演の広澤草さんは、名古屋の守山区出身です。相手役の青木友哉さんは声優もやられてて、皆さんCM等どこかで青木さんの声は聴いてると思います、名前が出ないだけで……

 ABCマートのナレーションをやってらっしゃいますよね。

谷口監督 谷口組では森さん人気が凄かったんですよ。現場ではムードメーカーが必要ですからね。

 映画監督って、灰皿投げたりするものかと思ってたんですけど……この人は全然投げないんですよね(笑)。

谷口監督 僕は投げないですね……いや、普通は投げないですよ(笑)!

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上映後、谷口雄一郎監督が自ら手掛けた全3作品の脚本が販売された。
シナリオコンペの草分けである「伊参スタジオ映画祭」の出身でもある谷口監督の繊細で緻密な脚本は定評があり、前回の特集上映の際はシナリオ講座が開かれたほどだ。
今回のシナリオも多くの観客が購入したが、これは脚本家・谷口雄一郎の人気を示すだけではなく、何より観衆がたった今観た作品を面白いと評価した結果だろう。

余談だが、最後に一つ。
取材にお邪魔した7月22日(日)14時の上映回、実は思いもよらない来客の姿があったそうだ。
シアターカフェの江尻真奈美さんによると、谷口監督の作品解説にも少なからぬ影響があったようで、他の回とコメントが少しずつ違っていたとのこと。
この出来事について、いつか「Hero.No.1 Film」作品で描かれる日が来るかも知れない……それを、心より待ちたいと思う――。

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