新人監督と無名の役者たちで作ったワークショップ映画が、今日本映画界を席捲している。
2018年7月21日(土)、シネマスコーレ(名古屋市中村区椿町)で東海地方のロードショー初日を向かえた映画『カメラを止めるな!』は、レイトショーにも係わらず午前中でチケットが完売しただけでなく、急遽企画された2度目の上映回も完売するという異状事態となった。

上田慎一郎監督、出演者の濱津隆之、真魚(まお)が登壇した舞台挨拶をレポートする。

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上田慎一郎監督 (客席が)ビッシリですね……隙間が全然ないですね。いや、いや、いや……立って観ていただいた方、本当にお疲れ様でした。『カメラを止めるな!』を監督しました上田慎一郎です。本日は本当にありがとうございました!

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濱津隆之 監督“役”の日暮隆之を演じました、濱津隆之と申します。今日はこんな沢山の方に観ていただいて、本当にありがとうございます。

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真魚 監督の娘役、日暮真央を演じました、真魚です。私は愛知県の豊橋市出身で、休みの時には名古屋に結構来ていたんで、感慨深いものがあります。

上田監督 声が小さい!後ろの方のお客様まで、届いてないよ(笑)!

真魚 本当に沢山の方に来て観ていただいて……済みません、声出します!集中していこう(場内笑)!

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MC. 皆さん、今日は福岡、京都を回ってこられたとか?(シネマスコーレスタッフ 大浦奈都子)

上田監督 そうです。今日は一日で三都市を回るという、目茶苦茶なスケジュールで(笑)……ラストで、こちらに来ました。

MC. 今日は19:05の回の後、急遽21:20からも上映することになりまして、しかもそちらも完売ということになっています(場内拍手)。東京でも凄いことになっているそうで?

上田監督 6月23日から公開が始まりまして、今日で4週目になるんですが……k's cinema(新宿区新宿)では、71回連続で満席を頂いています(場内拍手)。

MC. とんでもないことが起きてるんですけど……実感として、皆さん如何ですか?

濱津 時々、終わった後にロビーで「監督、良かったです!」ってこっちに握手される方がいらっしゃたり(場内笑)。

上田監督 監督は僕なんで、間違えないようにしてください(場内笑)。複雑な構造なんで、間違えやすくなってます。

濱津 よく「大変でしたね」って言われます(場内笑)。

上田監督 今日も東京では、ユーロスペース(渋谷区円山町)と、シネマ・ロサ(豊島区西池袋)と、k's cinemaでやってるんですけど、全館、全回、満席だったそうで(場内笑)。「早く開けろ!」っていう難民みたいな方が沢山出てるみたいです(笑)。

MC. これから名古屋でも、“難民”が(場内笑)……

上田監督 僕も結構名古屋には短編映画の時から何回か来させていただいてるんですけど、お客様の熱量が凄い高くて……さっきも道端で(『カメラを止めるな!』の)Tシャツで来た方が、もう泣かれそうになってた感じで……

濱津 手が震えてましたよね。

上田監督 k's cinemaまでわざわざ1回観に来て、今日また来ていただいたそうなんです。

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MC. 大旋風を起こしている『カメラを止めるな!』ですけど、いい加減、成り立ちとか映画の話をしようかと思うんですけど……

上田監督 はい。……え、「いい加減」(場内大笑)!?ちょっと、言い方が(笑)……。この映画は【シネマプロジェクト】という新人監督と無名の俳優たちでワークショップ、演技レッスンを経て、1本の映画を作るという企画で作られた映画です。7月1日にクランクアップだったので、ちょうど去年の今ごろ撮影をしていました。僕が監督をするというのを発表して、応募してくれた人の中で選抜をして、既存の映画台本を何回かやって皆の個性を見た上で、完全な当て書きで(脚本を)書いて作った作品なんです。なので、劇中に出てくる登場人物たちのキャラクターは、そのまま皆のキャラクターに近しいんです。この2人は、ほぼ、あんな感じです。

濱津 「ほぼ」、そうですね(場内笑)。

上田監督 応募が結構あった中で12人を選抜したんですけど、最初は『カメラを止めるな!』を撮ろうと決めてなかったんですよ。「誰と映画を作るか」というキャストだけ選ぶ段階では、取りあえず……人間としてあんまり出来が良くはない人たちを(場内大笑)……不器用な人たち、ポンコツを取ったんです(場内笑)。

真魚 あの、言い方(場内大笑)……今日それ5回くらい言われてるんですが(笑)。

濱津 朝からずっと(笑)……

上田監督 良い意味ですよ。ポンコツな人たちが、何とか力を合わせて1本の映画を作るというか……何かポンコツな人たちが集まって、何かを成し遂げるという……ポンコツが(場内笑)……

真魚 もういいから(場内大笑)!

上田監督 ……不器用な人たちを、集めたんです(笑)。やっぱり、器用な人たちに不器用な人を演じてもらっても、絶対それは嘘がばれると思ったので……本当に不器用な人たちに映画作りを本当に頑張ってもらうということと、劇中で生放送を乗り越えるということ、虚実入り交じった状態を作れれば、ただのエンターテイメント映画で終わらないものが出来るんじゃないかという気持ちがあって、そういう人を選びました。半数以上は「リツイートって、何だ?」という……ちょっと時代の流れに乗ってない人たちで……

濱津 はい、自分は本当に「ポンコツ」です(場内笑)。

真魚 自分は、ポンコツではないです(場内笑)。Twitterも皆より早く理解して、今リツイートを使いこなしてます。

上田監督 ……こんな風に、器用に生きている人じゃない不器用な人たちと一緒に(場内笑)。劇中ワンカットの部分でレンズに血が掛かっちゃった場面がありますが、あれとかも狙ってやった訳じゃなく、ガチのトラブルなんですよ。「ワンカット」は、計算して書いたトラブルと、ガチで食らったトラブルと、混在している状態です。一流の役者と一流のスタッフを集めてこの企画をやれば、多分そつなく撮れるかもしれないですけど……長編映画で名前がある役が初めてというレベルの役者たちと、ほとんどが30代の若いスタッフとで、37分のワンカットや「組体操」、不可能に近いようなことをやれば、「ほつれ」みたいな予期せぬトラブルが入るはずで。そんなものの鬩(せめ)ぎあいみたいなものを写していかなきゃならないと思ったんですよね。

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MC. 上田監督は、撮影現場でどんな感じなんですか?

濱津 僕の演じる日暮は、豹変する頭のおかしい監督だったんですけど(場内笑)、(上田監督は)全くそんなことはなくて、現場でも本当に今のこのままと全く変わらない雰囲気でした。とにかく「楽しんでいこう!」ということを何度も何度も口にしてくれて、映像の現場経験が全くない自分たちには、凄くありがたかったです。

真魚 オーディションを受けてワークショップにいる時から、上田さんは少年みたいな……「少年ジャンプ」みたいな(場内笑)……

上田監督 「少年ジャンプみたいな」って、何(笑)?

真魚 大人なんですけど子どもの心を持っていて、「皆で楽しもう!」という雰囲気を出されてました。濱津さんが仰ったように、カメラに慣れてない人も多かったので、緊張もしちゃったんですけど、そんな時も「当て書きなんだから、いつもの感じを思い出して」って言ってくださったり。本当に(壇上の雰囲気)このままです。

上田監督 僕は、この長編までに8本くらい短編を撮っています。中学校、高校の時にハンディカムで撮っていた頃は、映画を作るのに何も理由が無かったんです。取りあえずハリウッド映画とかを観て、「あんな銃の出し方を撮りたい!」だとか、「あんな歩き方を、こんなアングルで撮りたい!」とか。それが大人になって映画を作り始めて、色んな理由が出来てきちゃったんですよ。「偉い人に褒められたい」とか、「映画祭に入りたい」とか、そんな右往左往してる時期があったんです。『カメラを止めるな!』は本当に、誰に何を思われても良いから、もう一回中学生に戻って撮ってみよう。自分のやりたいこと、好きなことだけを詰め込んだものを作ろう。そう思って作った作品ですね。

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MC. 「37分ワンカット」に挑むというのは、凄いことです。今ワンカットは沢山あると思うんですが、この作品はワンカットを逆手に取っていますね。

上田監督 5年前くらい前に、とある小劇団の舞台を観て、そこからインスパイアを受けて、企画を発案したんです。ワンカットで撮ることは、最初スタッフに猛反対されたんですよ。(カメラを)ぶん回してるワンカットなので、「ワンカット風」に撮ることは可能なんですよね……カメラを振った時に一回カットして、また振る所から始めたりすれば。でも、それは「ワンカット」じゃないじゃないですか。画的にはワンカットになるかもしれないですけど、テンションとか繋がらないし。後半、役者がこんなにドタバタしてワンカットで撮ってるものを、俺ら(スタッフ)がワンカットで撮らなかったら駄目だろうと思って、皆を説得しました。

MC. 役者さんが映画の構成を全て理解していなくても作品は撮れると思うんですが、皆さんはどこまで理解して撮影に臨んだんですか?

上田監督 一回、座学みたいなことやりましたよね。皆、あんまり把握してなかったので、俺が黒板に作品の構造を図解して。「37分のワンカット」もトラブルに見舞われて出来たものなので、「本来はこうなるはずだったバージョン」もシナリオを書いて渡しました。相当、頭はこんがらがってる……こんがらがってると言うか、もう「考えない」くらいの感じだったかも……どうですか?

濱津 もう、こんがらがりました(笑)。台本上に書かれているトラブルなのか、現場で実際に起きているトラブルなのか……もう、「ふぅん」って感じで(場内大笑)。だから、監督が「もし上手く行ってたら台本」みたいなのを出してくれた時は、本当に助かりました。

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上田監督 公式パンフレットにシナリオが全部収録されてるんですけど、それは撮影前の決定稿なんですが、出来た映画は結構変わっているところもあるんですよ。実際に僕らが浴びたトラブルが撮影中に加味されているので、『ONE CUT OF THE DEAD』で起きたことが僕らの映画でも起きているという状態なんですよね。

真魚 片手ゾンビ(市原洋)も、もうちょっと早く出てくる予定だったのが遅れたりしましたよね。緊張して、現場でコンタクトが入らなかったりして(笑)。

上田監督 トラブルが起きちゃったら、舞台裏で何とかいなくちゃいけないことになるから、現場で脚本を書き直して……でも、そんな舞台裏でもトラブルが起きたりしましたから……

真魚 もう、訳が分からない(笑)。

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MC. 何と言うか、本当に途方もない(笑)……

上田監督 ……途方もない、ことをしてましたね(笑)。「組体操」も、ワンカットより難しかったりしましたし……撮影当日まで、一回も成功できなかったですから。別にワイヤーで吊ってる訳でもないですし……ただ単に、大人が頑張って組体操をしてたという(笑)……

MC. 本物が、写っているんですね?

上田監督 「本物」!そうですね。練習でも出来なかったんですけど、何故か当日成功できた15秒くらいが、皆さんが観ていただいた映像です。演技は一切してない……ドキュメンタリー映像です(場内笑)。

トークの後に行われたサイン会には客席のほぼ全員が並び、椿町には夜更けにも拘らず長蛇の列が出来た。
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また、シアターカフェで行われている『続 谷口雄一郎監督大全?!』チームがシネマスコーレに訪れ、旧知の監督二人は健闘を讃え合った。

シアターカフェでは、『カメラを止めるな!』の名古屋公開に合わせ、8月に2つの企画上映が組まれている。

ふくだみゆき監督は、上田慎一郎監督の奥様で、『カメラを止めるな!』で衣装・タイトルデザインを担当している。

『カメラを止めるな!』で松本逢花役を務める秋山ゆずきは、短編2作品でもヒロインを演じた上田監督のミューズだ。

日本中を席捲する『ワン・カット・オブ・ザ・デッド』の、『カメラを止めるな!』の夏は、まだまだ終わっちゃいられない――。

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