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「ヒューマノイドというのは、これからの時代、悲しみを減らしてくれる存在になっていくと、私は信じています」
「それは、楽しみですね」
セールスマン(多田亜由美)の言葉に、隆(ミネオショウ)は相槌を打つ。
2年前、晶子(影山祐子)を突然の事故で亡くした隆は、ヒューマノイドとして妻を蘇らせることを決めたのだが――。

第11回田辺・弁慶映画祭(2017年)で映画.com賞とキネマイスター賞をダブル受賞。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭、札幌国際短編映画祭と上映されるたびに大評判となった森田博之監督『ラストラブレター』(2016年/56分)。
東京(テアトル新宿)、大阪(シネ・リーブル梅田)で【田辺・弁慶映画祭セレクション2018】として企画された凱旋上映も大盛況で、名古屋では6月22日(金)からシアターカフェ(名古屋市中区大須)で上映が始まった。
ゴチソー尾張は、6月23日(土)の舞台挨拶を取材した。

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森田博之監督 この2人(で舞台挨拶をするの)は、初めてですね。

影山祐子 そうですね。

森田監督 日本映画学校(現:日本映画大学)の同級生でして……

影山 私は高校を卒業してすぐ学校へ行ったので、18歳で、森田くんは一つ上なので……

森田監督 19歳でしたね。

影山 その頃からなので……13~4年来の仲間で、作りました(笑)。

森田監督 『ラストラブレター』を撮ったのは、2015年8月でしたか。それまでは、あんまり交流は……

影山 そこまでコンタクトは取ってなかったですよね。

森田監督 影山さんが何をやってるのか、知らなかったですしね。

影山 とある映画に係わったのが切っ掛けで、オーディトリウム渋谷という今は無くなってしまった劇場で働いていて……

森田監督 『カラガラ』(2012年)の試写をオーディトリウムでやった時、いたんですよね。

影山 私は映画学校の監督コースを出てまして、監督志望だったので……卒業してから何をしてるかというのは、お互い分からずで。ふつふつと「出演する側になりたいな」という想いがあった中で、先ほど言った係わった映画で色々な人と出会って、頑張ろうと思ったんです。それが『トーキョービッチ,アイラブユー』(監督:/吉田光希/2013年/70分)という作品で、森田くんが観にきてくれたので、「今、こんなことをやってるんだよ」と。

森田監督 あんまり芝居らしい芝居はしてなかった印象で……

影山 そうでしたね(笑)。ワークショップの映画でして、割りとその時に築いた人間関係が、そのまま映画になってる感じです。

森田監督 役者をやってるなら、出てもらおうかという話になったんですよね。『ラストラブレター』は、スタッフも同期の人たちで……

影山 そうなんです。森田監督は高校が芸術高校みたいな学校だったので、カメラマン(荒船泰廣)と録音(中野雄一)……あと、劇中の写真(松谷友美)も……

森田監督 高校の同級生です。

影山 セールスマン役の多田(亜由美)さんも、高校の同級生ですよね(笑)。

森田監督 照明をやってくれた長田(青梅)も、同級生です。皆、意外と映画の仕事を続けてますね。

影山 一旦は卒業して連絡を取らなくなったのに、この作品を切っ掛けでまた集まりだして……同窓会みたいでしたね、先生とかも来てくれたりして。

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Q. この作品は、基本SFってことで良いんでしょうか?劇中の「戦争」も、物語の中で起きたことということで?

森田監督 そうです。架空の、これから未来に起きるかも知れない戦争の後、という話ではあるんですけど……僕は小津安二郎監督の映画が好きで、参考にしてる部分があります。寝室で2人が戦争の思い出話をするシーンは、『彼岸花』(1958年/118分)という作品が元です。戦争っていうのは嫌だった思い出だけど、緊迫した中で家族の絆みたいなものは今よりも密だった、みたいな場面がありまして……『彼岸花』は戦争から10年くらいしか経ってない頃に撮られた映画なんですけど、戦争は今考えても絶対にあってはいけない忌まわしいものですが、当時の映画の作り手である小津監督や脚本を書いた(野田)高梧さん、戦争をそんな風に捉えてる市民もいたということは、ちょっと大きな発見でした。『ラストラブレター』はSFですけど、やっぱりどこかに震災や戦争、悲劇をバックボーンに持つ二人で作りたかったんです。僕たちは戦争の「せ」の字も知りませんが、当時の感覚を借りてきて、影山さんとミネオさんに喋ってもらったらどうなるのかという狙いがあり、戦争の話は入れました。戦争、震災……東日本大震災が「あの時よかった」ってことには中々ならないですし、「3.11があって良かった」なんて絶対言えないことじゃないですか。

影山 大きく観ると悲劇ではあるけど、自分たちの半径数メートル以内の世界だと、こういう話が起こるっていうのはとても解るというのか……私は、あの台詞は凄くすんなり言えたと感じました。実際に体験したことではないんですけど、そういうことでしか周りの人の有り難さであるとか、近くの人の大切さとか気付けないな、と。気付いた時に、ちょっと「嬉しい」じゃないですけど、「再確認できた」という感覚は何となく分かる気がするんです。震災の経験がそうなのかは分からないんですけど、大なり小なりそういう経験は皆にもあって、それをちゃんと台詞に書いて撮るっていうのは、中々できないことだと思います。

森田監督 僕は父親を10年前に亡くしてるんです。亡くした直後は父親の話とかするとポロポロ泣けてきちゃったりしたんですけど、5年が過ぎて、7年が過ぎて……やっぱり時間が経つと、普通に喋れるようになってくるんですよね。悲しみみたいなものは、蓄積されるんじゃなくて、段々減っていく、薄れていくんだというのが、実感としてあったんです。劇中、寝室で話しているようなことは、時間が経ちすぎてて唯の出来事みたいな感じで話せるというのは、演出の狙いとしてあったんです。そこで感情が動くことはない、もうその時期は脱した、という。

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Q. 「写真は手紙だ」という台詞が出てきますが、あれは監督の想いがこもっているんですか?

森田監督 そうですね。『ラストラブレター』と言っときながら手紙は全く出てこないので……写真を撮りあうのが、二人がラブレターを送りあうみたいなことになってるんですけど、それを言葉にしないと分からないかなと思いまして。台詞にしないと、最終的に「ラブレターって、何だったの?」ってことになりかねないかと思って、ちょっと喋らせてみたんです。

影山 あの台詞……多分「写真は手紙だ」って言うのも、だいぶ勇気が要ったんじゃないかという思いがありました。(晶子は)だいぶ不器用な女性だな、と……私もちょっとそういう似たようなところがあるんですけど、何か直接的なことを言えないというか、遠まわしでややこしいところが(笑)。そういう人は、写真というツールがあることによって、想いを発散できる……そういうことだったんじゃないかなと思います。

森田監督 部屋に飾ってある写真を撮ったのは、松谷さんっていう高校の同級生なんですけど、その人も写真で上手く表現するみたいなところがあって……考えたら、僕も映画では色々言えるけど、面と向かっては言えないみたいなことはありますね。

影山 言葉が足りないところを、そういうもので補う、みたいな。

森田監督 今回上映したのは、テアトル新宿(田辺・弁慶映画祭セレクション)用で作ったバージョンで、エンドロールに色々名前を載せてるんですけど、あれ本来は無かったんです。映画祭で流してた時は載っけてなかったんですけど、ある時ポロッと母親に、「エンドロール、出てないんだね……」って(場内笑)……

影山 ……お母さん、めちゃくちゃ尽力していただきましたもんね。食卓のシーンのお料理は、全部お母さんが作ってくれて、物凄く美味しかったんです……茄子の煮浸しとか。チケットを販売する時も、オンラインで売れるようにしてくれたりとか……

森田監督 ……お金を出していただいたり、とか(場内笑)……

影山 監督の人生の半分くらいを、お母さんも一緒に歩んでるようなものですもんね。

森田監督 何と言うか、よく観てんだな、と……あんなところまで。それで、載せるようになったんです。母親の名前も、父親も。

影山 そんなところも、メッセージに……ラブレターになってる訳ですよね。

森田監督 父親をエンドロールに載せるっていうのは、感慨深かったです。制作には係わってない人のことを……

影山 でも、大きい存在ですもんね、監督にとって。私自身も「森田くんって、こういうこと思ってる人なんだ」って、映画を一緒に作ったり、完成した作品を観て、けっこう驚くことが何度もありました。「映画があって、よかったね」って感じですよね(笑)。

森田監督 とにかく、エンドロールについて考える切っ掛けになりました。

影山 最初の時はすぐ終わっちゃう感じでしたけど、どんどんどんどん上映に向けて人が増えてくるという……撮って終わりじゃないということを実感しましたよね。

森田監督 上映することで、どれだけ係わってくれた人がいたのか再認識すると言うか。

影山 エンドロールで最後の方に「Special Thanks」とか「感謝」って出てくると、何かちょっとグッと来てしまうんです……自分が全然関係ない映画でも(笑)。「感謝」って良いですよね。

森田監督 「キャリー・フィッシャーに捧ぐ」とか。

影山 映画は、最後まで想いがあるんですよね。

森田監督 監督にしか載っけられないメッセージですよね。あれが、プロデューサーからの「Dear ※※」とかだと、ちょっと違う……

影山 何か、他の臭いを感じてしまいますよね(笑)。

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森田監督 今回のシアターカフェさんで、取りあえず上映は最後です。

影山 東京は知人、友人も多いので、声を掛けたら「観なきゃ」という……半強制じゃないですけど、そういうところがあるから(苦笑)。でも、東京以外の場所では、こうやって純粋に観にきてくださる方が……

森田監督 大阪の時も、泣きそうになっちゃいましたね。

影山 泣きそうに……なるよね、よく(笑)。

森田監督 本当に、嬉しいです。作ってよかったなって思います。

影山 ちょっと、今も泣きそうでしょ(笑)。

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入場者には、オリジナル・ポストカードが配られた。
こちらは、「ラブレター限定で」使っても良いとのことだ。
ただし、その場合は印刷されている『LAST LOVE LETTER』の「LAST」は消した方が良いかも知れない。
「意味深ですからね」と、影山さんは笑った。

シアターカフェでの上映は、6月24日(日)が最終日となる。
併映の新作短編『世界で一番最後の魔法』も必見の傑作なので、どうか御観逃しなきよう。

映画『ラストラブレター』公式サイト

Theater Cafe公式サイト