「ガザの美容室」mainA

美容室のアシスタントとして働くウィダト(マイサ・アブドゥ・エルハティ)は、見合いをしつこく勧める母にうんざりしている。
彼女の恋人アハマド(タルザン・ナサール)は薬物や武器を売買するマフィアの一員で、パレスチナを実効支配するハマスからも目を付けられている。

クリスティン(ヴィクトリア・バリツカ)は、ロシアからパレスチナへ移り住んで12年になる。
彼女がガザに構える美容室には、毎日大勢の女たちが集まってくる。

エフティカール(ヒアム・アッバス)は、夫の浮気で離婚調停を控える主婦。
独身の担当弁護士のことを気になっており、彼に会う前に脱毛処理を施す。

サフィア(マナル・アワド)は、戦争での負傷兵を夫に持つ。
大のお喋り好きだが、それは夫に処方される薬物を密かに摂取しているからなのかも知れない。

ゼイナブ(ミルナ・サカラ)は、敬虔なイスラム教徒。
生まれてから一度も髪を切ったことがないと言う彼女は、女性しかいない美容室でもヒジャブを取ろうとしない。

「ガザの美容室」sub03

サルマ(ダイナ・シバー)は、結婚を間近に控えた美しい女性。
ロシア文学が好きで、母を心配し、義母との関係を憂いている。

ワファ(リーム・タルハミ)は、サルマの母。
持病に喘息を持ち、エルサレムの医療機関での診察を切望しているが、許可は一向に降りない。

サミーハ(フダ・イマム)は、サルマの義母。
花嫁に寛大な態度で接するが、口の悪さに性格が滲み出ている。

マリアム(ラニーニ・アルダウード)は、サミーハの実の娘。
母の雑言を窘めるしっかり者だが、自身はずっとスマートホンを弄っている。

「ガザの美容室」mainB

ファティマ(サミーラ・アシーラ)は、臨月の妊婦。
出産を直前に控えているため、妹ルバ(ラヤ・アル・カハテブ)に付き添ってもらい美容室へやってきた。

サウサン(ウェダッド・アル・ナサル)は、落ち着いた黒人女性。
自身よりも祈りの方を大切にした別れた夫のことを、静かに語る。

戦闘に巻き込まれ、阿鼻叫喚の坩堝となった美容室の一部始終を、
クリスティンの娘ナタリー(ネッリー・アヴシャラフ)は、小さな瞳でつぶさに見ていた。

これは、「十三人の怒れる女」たちの、物語――。

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パレスチナ(フランス、カタールとの合作)発、閉鎖空間でのワンシチュエーション・ドラマ『ガザの美容室』(2015年/84分)が、本日より全国順次公開となる。

監督・脚本を務めたタルザン&アラブ・ナサール監督は、1988年生まれの一卵性双生児。
ガザ生まれの彼らは、『ガザの美容室』が初長編となる。
原題の『Dégradé』はフランス語で「退廃」という意味で、ヘアスタイルの名前にも使われている単語だという。
なるほど、今作は退廃というモチーフで埋め尽くされていて、スクリーンは直接語られないものの出演者全員の「厭世観」で溢れかえっている。

イスラエル、ハマス、マフィア、ファタハ……劇中、ガザが、パレスチナが抱える政治的、社会的、構造的な闇についてのキーワードが台詞の端をつく。
しかし、ナサール監督はそれらの問題点に関して、深く穿つことはない。
「テレビやマスメディアは死を伝えるけど、日々の生活や本当の暮らしぶりには無関心だ。あらゆる困難をものともせずに暮らし続ける人々を、僕らは代弁し続けなきゃならないんだ」
タルザン・ナサール監督は、インタビューでそんな風に答えている。

無秩序の中にある、日常。
混沌の中にある、平穏。
そして、戦火の中にある、ユーモア。
鏡に映った女たちの様々な表情を、是非ともお観逃しなく。

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映画『ガザの美容室』

2018年6月23日(土)より、アップリンク渋谷、名演小劇場ほか全国順次公開
監督・脚本:タルザン&アラブ・ナサール
(2015/パレスチナ、フランス、カタール/84分/アラビア語/1:2.35/5.1ch/DCP)
提供:アップリンク、シネ ゴドー
配給・宣伝:アップリンク
公式サイト: